外国人介護人材と共に創る未来
〜特定技能「介護」の今とこれから〜
2019年にスタートした「特定技能」制度の中でも、注目を集めている分野の一つが「介護」です。
少子高齢化が進み、介護人材の確保が急務となる中、外国人材の受け入れは現場にどのような影響を与えているのでしょうか。

介護現場のリアルな人手不足
厚生労働省の発表によれば、2025年には約243万人、2040年には約280万人の介護職員が必要になる一方で、供給はこれを大きく下回ると見込まれています。人材不足に悩む介護施設にとって、外国人の受け入れは、もはや「選択肢」ではなく「必要条件」になりつつあります。
その中でも「特定技能1号(介護)」は、即戦力として外国人材を雇用できる有効な手段として、多くの介護事業者から注目されています。
「特定技能1号」として働く外国人介護人材
特定技能「介護」は、技能実習やEPA(経済連携協定)とは異なり、即戦力として働ける制度です。日本語能力試験(N4以上)や介護技能評価試験に合格することが条件で、最大5年間の就労が可能です。
これまでベトナムやインドネシア、フィリピンなどから多くの人材が来日しており、現場では「明るく、まじめに仕事に取り組んでくれる」「利用者との関係も良好」といった高い評価が聞かれています。
在留資格の許可が下りるまでの手続き期間は、平均2~4ヵ月程度とされています。
ここで、制度の基本要件と採用までのフローをお伝えします。
1.応募資格(求職者側)
・日本語能力試験(JLPT N4)またはJFT-Basic合格
・介護技能評価試験の合格
・介護分野の特定技能測定試験(国内または海外で受験可能)
2.企業の受け入れ要件
・介護保険法上の「介護サービス事業者」であること
・外国人雇用に関する支援計画の策定・実施
・日本人と同等以上の労働条件の整備
・日本語教育・生活支援・相談体制の構築
3.採用~入職までの流れ
①登録支援機関の活用、または企業による直接支援体制の整備
②求人掲載・マッチング(国内/海外)
③在留資格「特定技能1号」の申請
④就労開始・支援体制の実施(定着支援は義務)
受け入れ側の課題と可能性
一方で、外国人材の受け入れにはいくつかの課題も存在します。たとえば、言語の壁、文化的な違い、受け入れ体制の整備不足などです。「教える余裕がない」「外国人向けのマニュアルが整っていない」といった声も多く聞かれます。
しかし、制度を有効活用し、外国人材の定着に成功している施設では、外国人を“戦力”としてだけでなく、“仲間”として迎え入れる工夫がなされています。日本語教育の支援、異文化理解を促進する研修、生活面でのサポート体制の充実などが、定着率の向上に大きく寄与しています。
◇受け入れの実務ノウハウ
① 採用前のポイント:マッチング精度の向上
・技術や語学よりも「人柄」と「適応力」を重視する
・事前のオンライン面談で、志望動機や仕事観を確認
・海外送り出し機関の信頼性チェックを徹底する
② 就業中のサポート:定着率を左右する3つの鍵
1.言語支援の継続
・日本語学習アプリの提供やeラーニングの活用
・職場内の「やさしい日本語」研修の実施
2.文化理解とチームビルディング
・多文化共生の研修(外国人と日本人職員双方に実施)
・出身国の文化や習慣を紹介するワークショップ
3.生活支援の充実
・住居の確保、行政手続きへの同行支援
・地域交流イベントなど、休日のコミュニケーション支援
共生社会への第一歩
特定技能「介護」は、単なる労働力の確保ではなく、「人と人が向き合うケアの仕事」です。国籍や文化の違いを超えて、外国人材が「この職場で長く働きたい」と思える環境づくりが、介護現場における持続可能な体制づくりにつながります。
外国人介護人材の受け入れは、介護事業者にとって人手不足を補う手段であると同時に、共に学び・支え合い・未来を創っていくための社会的な挑戦でもあります。 今後、日本が超高齢社会の中でどのように外国人と共生しながら暮らし、働いていくのか―
その答えの一つは、日々の介護現場から生まれていくのではないでしょうか。
コラムは、次の出典をもとに著者作成
出典:「特定技能制度 特定産業分野(介護分野)」(出入国在留管理庁)
出典:「介護人材確保に向けた取組」(厚生労働省)
出典:「介護分野における特定技能外国人の受入れについて」(厚生労働省)